朝。
ミカエラの姿は白亜の神殿にあった。 爽やかな朝早い時間に祈りを捧げることは彼女の日課だ。 王国では王家に並ぶほど神殿の力が強い。 神殿で祈りを捧げることは、ミカエラに課せられた義務のひとつだ。(神殿で祈りを捧げると気持ちが落ち着くわ)
ミカエラにとっては義務ではあるが、神殿で祈ることは嫌いでない。
周囲には彼女を取り巻くようにして神官たちが祈りを捧げている。 跪き熱心に祈りを捧げていたミカエラは、巨大な女神像を見上げた。 白く巨大な石像は、穏やかな慈愛に満ちた笑みを浮かべてミカエラを見下ろしている。(女神さま。わたくしをお救いください。そして道をお示しください)
ミカエラは立ち上がると、隣で同じように立ち上がったエド神官へ話しかけた。
「一緒に祈りを捧げて頂いて、ありがとうございます」
「いえいえ、ミカエラさま。貴女のために祈ることができるのは、我々にとっても幸せなことです」エド神官は、七色に輝く不思議な瞳をキラキラさせながら言った。
彼は虹色に輝く不思議な髪と瞳を持っている。 虹色の髪と瞳は見た目も美しいが、それだけではない。 この王国では【守護精霊】というものが信じられている。 【守護精霊】はキラキラと輝く光として現れ、様々な色を持っているとされていた。 色により守護してもらえることが違う。 エド神官の七色に輝く髪と瞳は、全ての守護精霊の色が入っているとされる色だ。(天使というものがいるのなら、まさにエド神官のような存在なのではないかしら)
その美しい笑顔を眺めながら、ぼんやりとミカエラは思う。
「此処は、いつ来ても落ち着く場所ですわ」
ミカエラは心から言った。
神殿は虚飾に満ちた王宮とは違う。 太い柱が何本も立ち並び、所々に彫刻の程された白亜の建物は質素というわけでもないが、 かといって虚栄に満ちているわけでもない。 神のための場所は、どこまでも厳かで尊く、高い精神性を感じさせる清らかな場所であった。 神殿という実体がありながら神の加護という目に見えないものを得られる場所は、ミカエラにとって、ありのままの心内を吐露できる貴重な場所でもある。(己の心さえ騙さなければ生きていけない所に、わたくしは住んでいるから……)
誰が味方で誰が敵なのか分からない王宮で、人間に頼ることは難しい。
あそこは魔窟だ。 本心は口にさえしなければバレないというものでもない。 油断ならない場所で孤独に生きるしかないミカエラに、心休まる時などないのだ。しかし神が相手ならば、心の中で思いの全てをぶちまけても悪影響はない。
たとえそれが気休め程度の効果しかなかったとしても、ないよりはマシだ。 ミカエラは神殿に来ると、祈りながら神に不満をぶちまける。なぜ自分は『愛する人を守る』と、いう異能など持っているのか?
こんなモノが何の役に立つというのか? 自分は幸せになれないのか? 愛されず、愛を知らない自分が、愛する人だけは持てるというのは大きな矛盾ではないか?などなど。
祈った所で答えは得られないが、不満をぶちまけるには充分だ。 どれだけ苦しいと言っても、痛いと言っても、神は受け止めてくれる。 心の中で愚痴るくらいは許してくれる。 だから彼女は、神殿で祈ることが好きだった。(これが神に縋るということなのかどうかは分からないけれど。此処でしか得られない安らぎがあるのは確かよ。だったら祈るのは、悪いことではないわ)
それに神殿では、ミカエラは神官たちに歓迎されていた。
それだけでも王宮とは違う。「神殿は居るだけで心が安らぎます」
ミカエラの言葉に、エド神官は笑みを深めた。
「ありがとうございます。ミカエラさまにそう言っていただけると嬉しいです。もっと頻繁にいらして下さってもよいのですよ? 神殿は王国を守るのはもちろん、人々の心に安寧をもたらすための場所でもあるのですから」
「ありがとうございます、エド神官」神殿には王家と肩を並べるほどの力があり、神官たちへの国民の信頼も厚い。
王家としても無下に扱うことはできず、ミカエラが神殿に足繁く通う事は歓迎されるだろう。(もうじき王妃教育にも一区切りがつくわ。そうなったら通う回数を増やすのもよいかもしれない)
ミカエラの異能について、神官たちは知らないはずだ。
(でも何かしら察している気がするわ。神に仕える者たちの勘は侮れないもの)
歴代の王太子婚約者も、神殿に祈りを捧げに来ていたそうだ。
だが途中で婚約者の方が変わったり、王太子の方が変わったりと忙しかったと聞いた。 それだけ暗殺が日常化しているのだ。 殺されないまでも、王太子やその婚約者が倒れるのはよくあることである。 それが王太子婚約者にミカエラが据えられてからは全く無い。 王太子が病や怪我で寝込むこともないし、ミカエラが神殿に姿を現さない日もないほど順調だ。 痩せ細っているミカエラの健康を危惧する声はあるものの、実際に倒れることはないのだから婚約者としての地位を奪うのは難しい。 高位貴族たちが歯噛みしても、ミカエラの王太子婚約者としての地位は揺らがないのだ。「ミカエラさまが毎日のように祈りを捧げに来られるおかげか、アイゼル王太子殿下はお健やかにお過ごしです。このまま平穏な日々が過ぎていくことを我々神官は祈っております」
「わたくしも同じ想いですわ、エド神官」王太子婚約者の変更がないことで、現在の政権は安定している。
王太子の変更がないことは、それよりも更に政権の安定に貢献しているのだ。 神官たちは、理由は分からないまでも、ミカエラに神の恩恵がもたらされていることを疑ってはいなかった。ただし。
例外は、いつも存在しているものだ。「みな騙されている」
灰色の髪に青い瞳を持つ副神官は、神殿の隅からミカエラを見据えていた。
肌色はくすんでいて、他の神官たちとは明らかに違う。 彼はミカエラを認めていない神官のひとりだ。「あの女は、悪魔だ」
憎々しげな呟きは誰の耳にも届くことなく、神殿の奥へと消えていった。
副神官たちへの処分は速やかに決められた。 名も無き者たちは罪状すら公表されることなく絞首刑となり、下層の貴族たちも処刑された。 それぞれの家は、もっともらしい理由をつけて潰された。 男爵、子爵程度であれば簡単に切り捨てられるが、それ以上の立場となると扱いが難しい。 当事者だけを処刑させて難を逃れようとする家もあれば、政治的な取引で我が子を助けようとする家もある。 それらを細かく処理したうえで、副神官の処分は決められた。「どうして私が処刑されなければならないのですか、大神官さまっ!」 副神官は大きな机をバシンと叩いて叫んだ。 大神官は自分の机の前に座り、激高する副神官を見上げた。 灰色の髪を振り乱して叫ぶ副神官の姿は醜い。 大神官は形のよい金色の眉を不機嫌そうに跳ね上げた。「君は王太子殿下に現場をおさえられたのだよ? 言い訳のしようもないではないか」「ですが、私は神官です。しかも副神官まで上り詰めた神官です。その私がっ! 他の者たちと同じように処分されるのは納得できませんっ」 副神官の身勝手な言い分に、大神官は溜息をついて右手で額のあたりを包んだ。「我ら神官は特別な立場ではないと、私は何度も言ったはずだ」「あれは下級神官の引き締めを促すための言葉でしょう⁉ あなたに次ぐ立場である副神官の私に当てはまるはずがないっ!!!」 副神官の醜い申し開きは続く。 大神官は再び溜息を吐いた。 ミカエラ誘拐の現場へ王太子に踏み込まれたというのに、副神官の往生際は悪かった。「君はね、副神官。王太子婚約者の誘拐という大罪を犯したのだよ? 罪を不問に付されると思ったのかね? どうしたらそんな思い違いができるのか……」「だってあの女は、たかだか伯爵家の娘ではありませんかっ。しかもあの家はいわくつきの家です。あの家の娘を守ることのほうが、私の命よりも価値があると⁉」 どう説明したら納得してもらえるのか? 大神官は、そんなことに悩むこともバカらしくなった。「あの家のことも、異能のことも、君には説明したと思うけれど」「それは聞きましたけれど……」 副神官はモゴモゴと不満げな言葉を口の中で転がしている。(長年の修行とはなんだったのか? コイツは何1つ分かってない) 大神官は部下であり弟子でもある副神官を青い瞳で冷たく見つめた。
ミカエラを誘拐した者たちは捕まった。「とはいえ、副神官が関わっていた、となると表立って処罰するのも都合が悪い」 国王は政治に敏感だった。「私としては、ミカエラを誘拐した者たちは厳しく罰して欲しいのですが」 アイゼルが厳しい声で迫ると、国王は諭すように言う。「だがな、アイゼル。厳しく罰すれば【ミカエラが誘拐されたこと】が周りに知られてしまう。それは【ミカエラを誘拐すればお前にダメージを与えることができる】と周りに知らせるのと同じことだ」「……ッ……」 父に指摘されて、アイゼルは唇を噛んだ。「冷たくしてまで守りたかったミカエラを、守ることができなかった無念は分かるが。幸い、今回は怪我ひとつなく救い出すことができた。だが、彼女がお前の弱点であると知れ渡ってしまえばそうはいかないだろう」「……はい」 アイゼルも充分に承知していることではあったが、罰したい気持ちは消えてはくれない。(愛を囁きたい気持ちを我慢してまで守っていたものを攫われて……はらわたが煮えくり返っているのに。この気持ちをそのままアイツらにぶつけることすら叶わないとは!) 息子の様子を眺めていた国王はフフッと笑った。「なに、表立って罰する必要はない。罰し方などいくらでもある」 その声はひどく冷たかった。 「お前はまだ若い。儂のやり方を見て覚えなさい」「はい、父上」 アイゼルは冷たく光る父の目を、復讐に燃える瞳で見返した。
「まぁま、ミカエラさま! ご無事でよかったですっ」「え……ええ。ありがとう……」 自分の部屋に辿り着いたミカエラを待っていたのは、侍女の歓待だった。「大変な夜だった。ミカエラは疲れているだろう。よろしく頼むよ」「あ、はい。承知いたしました」 侍女は慌ててアイゼルに向かって丁寧なカーテシーをとった。 夜会会場からミカエラが攫われたことは一部の人たちにしか伝えられていない。 侍女ルディアは、その秘密を教えられたうちの1人だ。 しかも自分の女主人が王太子にエスコートされて帰ってきたことで、手のひらをコロッと返したように態度を変えた。 帰っていくアイゼルの後ろ姿に頭を下げて見送ったルディアは、クルリとミカエラに向き直ると口を開いた。「さぁさ、ミカエラさま。大変だったでしょう。湯あみの準備が出来ていますからこちらへ」「え? ええ」 テキパキとお世話されてミカエラは戸惑う。(ある意味、ルディアの反応は分かりやすいわね。わたくしがアイゼルさまに冷たくあしらわれていると思えば冷たく扱うし、アイゼルさまから大事にされていることが分かれば態度がよくなる) それは歓迎できないときもあれば、できるときもある振る舞いだ。(わたくしには【アイゼルさまからの愛】を信じる必要がある。少なくともルディアの機嫌がよいときには、信じたらいいのだわ) 猫足のバスタブに体を預けながらミカエラは思った。 ミカエラの誘拐は、スムーズに解決された。 夜会はつつがなく終了し、ミカエラの誘拐そのものに気付いていない者がほとんどだ。 攫われて一日も経たずに救出されたため、事情を知らない人たちから見たらミカエラは王太子と朝帰りしたように見えた。(夜に攫われて今は昼近い。わたくしが消えて衛兵たちがバタバタしていたことにも気付かなかった人たちにとっては、そのような意味にとられても仕方ないわね) もちろん侍女ルディアには事実が伝えられている。 だが彼女は上機嫌だ。「うふふ。アイゼルさまは、ミカエラさまにぞっこんでしたのね。私、気付きませんでしたわ」 彼女の機嫌がよいのは、ミカエラの無事を喜んでの事というわけでもない。 ミカエラがアイゼルと朝帰りした、という噂が広まることで自分の立場がよくなるからだ。「今日はお手入れに時間をかけるよりも、お休みになったほうがよいかもしれません
頭を抱えていたアイゼルは、突然ガバッと顔を上げるとミカエラの方へ顔を向けて口を開いた。「今回のことは副神官が首謀者として裁かれるだろう。もっと先があるのは分かっているが、証明ができない。あの場にいた副神官に関しては罰せられる。それは確実だ。約束する」「えっと……はい」(アイゼルさまが必死になっていらっしゃる。わたくしは、冷遇されている王太子婚約者ではなかった、ということなのかしら?) ミカエラは、まだ夢を見ているような気分を味わっていた。 アイゼルは続けて説明する。「副神官は言い逃れできない。だがその先にいる者たちには手が出せないのも事実だ。そこは許してほしい」「はい。常に政治的な判断が必要なのは承知しております」「あぁミカエラ。その顔は、まだ私の気持ちは通じていなさそうだ」 アイゼルは落胆したような表情を浮かべた。 そんな王太子を見てミカエラは戸惑う。(気持ち? 気持ち、ですか……) ミカエラの気持ちは異能を通じてアイゼルに駄々洩れだ。 (わたくしの気持ちについては自分で分かっていますけど、アイゼルさまの気持ち……気持ちは意識していなかったような気がします) ミカエラはアイゼルに優しくしてもらいたいとは思っていたが、気持ちについては深く考えたことはなかった。(愛されたいというよりも、愛しているように見える行動を求めていたような気がするわ) 優しく話しかけて、エスコートしてもらって、一緒にダンスをする。「わたくしはポワゾン伯爵令嬢のように扱ってもらいたかっただけ……」 なんとなく口にしたミカエラの呟きを聞いたアイゼルは血相を変えた。「あぁぁぁぁぁ、それは誤解だ。誤解だからっ」「誤解?」 首を傾げるミカエラに、アイゼルは事情を説明した。「まぁ! ではあの方はポワゾン伯爵令嬢ではなく、令嬢に変装したポワゾン伯爵なのですか?」「そうだ」 アイゼルは「それはそれで問題があると思うが、私はそっちじゃないから」などとブツブツ言っている。 それを見て守護精霊たちはケラケラと笑っているが、ミカエラは混乱していた。(攫われたと思ったらアイゼルさまに救われて、そこから一気に新情報が入ってきて理解が追いつきません~) ウィラは笑いをおさめると、凛とした物言いでミカエラに話しかけた。『ミカエラ。ボクはミカエラの側にずっといるし、
アイゼルはミカエラ方に向き直って口を開いた。「ミカエラ。隠し部屋にいた君を見つけることができたのは、ラハットたちの協力があったからだよ」 ミカエラは驚いてアイゼルへ向かって勢いよく顔を向けた。「守護精霊さまたちの?」「ああ」 2人のやり取りを見ていた守護精霊たちは、コクコクと頷きながらキラキラと嬉しそうに煌めいた。 「そういえば、わたくしが閉じ込められていた部屋は……」「ああ。あの隠し部屋は外からは見えないし、私も知らなかった。だからラハットたちに教えてもらえなかったら、君を救いにいくのは難しかっただろう」 苦しげに言うアイゼルに、ミカエラの胸はトクンとときめいた。(アイゼルさま。そんなにわたくしのことを……) ラハットが嬉しそうに説明する。『ボクたちが教えてあげたんだよぉ~』『そうそう。ボクたちは神殿や王城のことは知り尽くしているし、壁もすり抜けて移動できるからね』 ウィラの言葉を受けて、ラハットが得意げに壁抜けを披露してみせた。「まぁ!」「な? 驚くよな。私も初めて見た時には驚いたよ」 驚くミカエラの横で、アイゼルは呆れたように守護精霊たちを指さした。『でもねぇ、最初は上手く伝えられなかったんだよ』 ラハットが言えば、ウィラもコクコクと頷きながら言う。『そうそう。ボクの姿はアイゼルには見えにくかったからね』 ミカエラは意外そうに言う。「あら? ラハットが見えるようになれば、ウィラも見えるようになるのではなくて?」 ラハットが意味深にニヤニヤと笑いながら説明する。『そこはさー。ミカエラとアイゼルの関係次第なんだ~』『そうそう。ボクの姿はミカエラからはクッキリ見えるようになるけど、アイゼルへの見え方はミカエラの気持ち次第なんだよねぇ~』「え?」(どういうこと?) ミカエラは困惑してアイゼルと守護精霊たちを交互に見比べた。 ラハットは腕を組んで真面目な顔をすると、コクコクと頷きながら言う。『ボクたちは信じる気持ち次第で見えたり、感じられたりするレベルが変わるし。それは愛とか恋とかの感情ともつながっているんだ』 頷いて下を見るたびに大きな目が閉じる姿は可愛いが、言っていることは難しい。 ウィラもラハットの隣で同じように頷きながら補足する。『うん。ニンゲンには理解が難しいかもしれないけど、ボクたちにとっ
ミカエラは守護精霊たちを眺めた。(本当にいる。守護精霊さまが目の前に!) 隠し部屋にいることも、その部屋にアイゼルがいることも、守護精霊たちがいることも、夢幻のように思える。(子どもが読む物語みたい。絵本にありそうね) ミカエラはオレンジ色の守護精霊と、青い色の守護精霊を交互に眺めてから聞く。「ウィラさまがオレンジ色の光で、ラハットさまが青い光なのですね。オレンジは……」 ウィラはクルッと空中を1回転した。『ボクはウィラ。無償の愛と健康の守護精霊だよ』 ラハットもクルッと空中を1回転した。『ボクはラハット。清廉な愛の守護精霊だよ』 ミカエラは目をぱちくりさせた。「そうですよね。守護精霊さまの持つ色には意味があり、守護された者は色に合わせた加護を受けると……」『うん。そうだよ』 ニコニコしながら告げるラハットの隣で、ウィラはクシュンと項垂れた。『でもボクは上手く働けなくて……ごめんね、ミカエラ』「あぁぁぁぁ……ウィラさま? わたくしは、そのようなつもりで言ったのではありません。あぁ、ウィラさま。落ち込まないでぇ~」 ミカエラはあからさまにしょげてしまったウィラに慌てた。『そうだよ、ウィラのせいじゃないよ』 ラハットもウィラを慰めた。『でも……ボクは……もっとミカエラのために、働きたかった……』『仕方ないよ。アレはアイゼルが悪かったんだから』 ラハットは、責めるような横目でジロッとアイゼルを見た。「うぅぅぅぅ。不甲斐ない王子で、ごめんね」 アイゼルは大きな両手を合わせて守護精霊たちに頭を下げて謝っている。『アイゼルがさー、もっと早くミカエラへ愛を感じさせていたらさー。ボクらも動きやすかったのにさー』「だからごめんって、ラハット」(アイゼルさまが謝っている……) ペコペコ頭を下げる王子さまの姿は新鮮だ。 しかも相手は守護精霊とはいえ見た目がとても可愛い。(なんとも不思議な光景ね) ミカエラはポカンとして、アイゼルたちを眺めていた。『ミカエラ。キミは気付かなかったけど、ボクはずっと見ていたよ。助けられなくて、ボクはとっても歯がゆかったよ』「ウィラさま……」 眉毛を下げて何ても言えない表情を浮かべるミカエラを見て、ウィラは気持ちを切り替えるようにニコッと笑った。『ミカエラ。ボクのことは呼び捨てでいいよ。ウ